この記事を書いた人
現在の年齢:32歳
当時の年齢:26歳
出会い
妻との出会いは、婚活パーティーでした。
当時の僕はまだ24歳。
大学卒業後に入社した会社で、ようやく仕事に慣れてきたところでした。
人間関係にも恵まれ、その日は、仲の良い先輩の付き合いで婚活パーティーに参加していました。
先輩は結婚願望が強く、数々の婚活パーティーに参加していると聞いていました。
好奇心で婚活パーティーはどんな感じなのかと聞いたが最後、あっという間に連れて行かれることに。
僕は結婚したくないわけではないですが、まだ24歳でしたし、あまり乗り気ではありませんでした。
先輩が会費を払ってくれたので、タダで飲み食いできる分、先輩の引き立て役に徹しようと思っていました。
立食形式だったので、先輩に代わって女の子たちに声をかけ続け、先輩と女の子がいい雰囲気になったところで、そばを離れました。
あとは食べて飲んで帰ろう、そう思っていたときでした。
お皿に乗せられるだけ料理を乗せ、隅にあった椅子に座ると、少し前に話しかけた女性が隣に座ってきました。
「さっきの子だよね?もしかして付き添いで来たの?」
事情を説明すると、女性は笑いました。
先程、彼女と彼女の連れに話しかけに行った際、終始、僕が司会者のようにその場を回そうとするので、おかしいなと思っていたそうでした。
彼女は彼女で、友人が参加者の男性と良い雰囲気になり、居場所をなくして会場内をふらふらしていたということでした。
それからすぐにビンゴ大会が始まったので、僕たちは一緒にいる流れになり、お互いの話をしました。
突然の涙
彼女は30歳で、長年付き合っていた彼氏がいて、年齢的にも、その彼氏と結婚するつもりでいたそうでした。
でも結婚の話を出すと、彼氏から、もう彼女のことを女として見れず、別れるタイミングを探していたと言われたそうです。
これからは友達として仲良くしてほしいと言われたと言うので、何気なく、そんなの無理ですよね、と呟きました。
すると、過去のことを思い出してしまったのか、彼女がポロポロと泣き出しました。
慌てて彼女の友達を呼ぼうとしましたが、もう帰るから大丈夫だと言って、出ていこうとしました。
彼女は自立した女性に見えたので、僕についてこられたら逆に迷惑かもしれないと思いましたが、なんとなく放っておけませんでした。
婚活パーティーを後にし、2人きりに
婚活パーティーを途中で抜け出し、近くの大衆居酒屋に入りました。
その店でお酒を飲みながら元カレの話を聞き続け、気づけば、終電に近い時刻でした。
彼女はお酒には強いそうですがだいぶお酒を飲んでいたので、一人で家まで帰れるか怪しい状態でした。
家まで送りますよと言うと、彼女はふらふらしながら、店の前の通りで腕を大きく上げ、タクシーを止めました。
僕を車内に押し込んで、今日はごめんねと謝った後、タクシー代だと言って一万円札を渡してきました。
こんな状態の彼女を置いてはいけないと思いましたが、「いいからいいから」と押し切られ、タクシーで自宅まで帰りました。
あんなに弱ってたのに、無理して強がったんだなあと思ったら、急に彼女のことが気になりだしてしまいました。
朝まで連絡を取り続けた
店を出るときに連絡先は交換しており、無事に家に着いたかの確認もしたかったのでメッセージを送ると、私もタクシーで帰ったから大丈夫だと返信がきました。
そのままメッセージのやりとりが終わってしまわないよう、なんとか疑問形で返し続けました。
土曜の夜だったこともあり、朝の5時頃まで連絡を取り続けていたと思います。
「タクヤくんのおかげで、久々にぐっすり寝れそう。ありがとう」
最後のメッセージにそう書かれているのを見たときには、もう、彼女のことが好きになっていたのかもしれません。
朝まで起きていたから眠かっただけかもしれませんが、彼女は、元カレのせいで不眠が続いていると言っていたのです。
勝手に元カレに勝ったと思い、僕も、その日は夕方まで寝ました。
それが、妻のユウカとの出会いでした。
それから二人でご飯を食べたり、出かけたりするようになり、半年後、なんと僕は先輩よりも早く籍を入れたのでした。
結婚後のギクシャクした関係
結婚して一年が経った頃からでした。
子どもができないことにユウカが焦りだしたのです。
まだ一年だし、と僕はのんきに構えていましたが、6歳年上の彼女は、出会ったときにはすでに30歳でした。
早く子どもをつくらないと、子どもができなくなってしまうかもしれないと、毎日のように妊活の話をしてきました。
子どもは欲しいとは思っていましたが、正直、ついていけないと思ってしまいました。
うるさく言い過ぎたと思ったのか、しばらくすると、「子どもができなかったら犬を飼いたい」という話に変えてきましたが、僕はその頃から、ユウカの話をちゃんと聞くことができなくなっていきました。
そんな中、ユウカは気分転換にジムに通いたいと言い出します。
妻のジム仲間とのBBQ
ユウカは結婚後も仕事を続けていたので、土曜日だけ、ジム内のヨガスクールの時間に合わせて通うことになりました。
ヨガの後のトレーニングも含め、5時間程、家にいないことになります。
その時間だけは、そろそろ子どもの話が出るか…、とビクビクせず、穏やかに過ごすことができるようになりました。
お互いに気分転換ができるようになり、二人の関係性も少し良くなったように思いました。
そんな矢先でした。
ジムで仲良くなった人たちで、バーベキューをしようという話になったそうです。
みんな家族を連れてくるということで、僕も一緒に参加することになりました。
バーベキュー当日、河川敷には20人弱くらいの大人と子どもが集まっていました。
ジムの仲間だったので、世代はバラバラで、高校生の子どもがいるという夫婦も参加していれば、僕と同い年くらいの夫婦もいるようでした。
小さな子どもたちもいたので、ユウカは積極的にお菓子をあげたりジュースを入れてあげたりして、楽しそうにしていました。
僕はやることがなかったので、肉を焼くことに集中しました。
ただ、ずっと焼き続けているわけにもいきません。
ついに、代わりますよ、と、名前も知らない男性にトングを取り上げられてしまいます。
どうしたものかと思っていると、同い年くらいの夫婦が料理を持って来てくれました。
そのへんの石の上に座って、三人でしばらく話していると、ジュースがなくなくなったようで、子どもたちが騒ぎ始めました。
「俺、近くのコンビニで買って来るわ」
旦那さんがそう言うので、付いていこうとしましたが、ずっと肉を焼いてくれていたんだから、ゆっくりするようにと、置いていかれてしまいました。
残った奥さんに、
「ミサキさん、でしたよね?僕と二人じゃ気まずいですよね」
と苦笑いしながら言うと、ミサキさんは、いいの、と言いました。
「あいつ、不倫相手に連絡するために買い出しに行ったんだから」
初対面でいきなりのカミングアウトに、僕はびっくりして何も言えませんでした。
「お互い遊んでるから、いいの。気にしないで」
そう言いながら、ミサキさんは僕の目を真っ直ぐに見てきました。
「タクヤさんも、ユウカさんとうまくいってなさそう」
あまりの突然のことで、僕は否定することができませんでした。
お互い同い年だし仲良くしよう、と言われ、連絡先を交換してしまいました。
妻の帰省
ミサキさんとはLINE上でメッセージをやりとりするだけの関係でしたが、タイミングが良いのか悪いのか、ユウカが同窓会で帰省することになりました。
ミサキさんはそれをジムで聞いたらしく、一緒にご飯に行こうと誘ってきました。
僕は迷いましたが、ご飯に行くだけだし…と思い、行きますと返事をしました。
もちろん、そんな関係性の二人が夜飲みに行って、そういう流れにならないわけがなく…
どちらからというわけでもなく、近くにあったビジネスホテルに入りました。
いざ関係を持ってしまうと、途端に怖くなり、ミサキさんとは、その日を最後に連絡を取らなくなりました。
台風の夜
ミサキさんと関係を持った夜から、ユウカに対しての罪悪感が芽生え、優しく接するようになりました。
ユウカも、同窓会で同級生に何か言われたのか、子どもの話も犬の話もしなくなりました。
二人で出かける機会が増え、仕事終わりに待ち合わせをし、飲んで帰ることも多くなりました。
その日は台風が近づいており、深夜に本州に上陸予定と、前日からニュースで伝えられていました。
出勤しても早く帰るように言われるんだろうなと思ってはいましたが、予想通り、定時退社扱いにするので、午後三時を目処に帰るように言われました。
せっかく早く帰れるんだったら、デパ地下の惣菜でも買って家で飲もうかとユウカに連絡を入れると、ユウカの会社も早く帰るように言われたそうですが、後輩がミスをしてしまい、早くて18時に終わるかどうかだと連絡が来ました。
自分だけ自宅で待っているのもなんだかなぁと思い、その日は金曜日だったこともあり、ユウカの会社の近くでホテルを取るから、泊まろうと提案しました。
ユウカはそれを楽しみに頑張ると言い、僕は先にデパ地下で料理やお酒を買い込み、部屋で待っていることにしました。
みんな同じようなことを考えているのか、夕方なのに、デパ地下はスーツ姿の人たちの姿で溢れていました。
匂いにつられて餃子を大量に買い込み、クサいって言われそうだな…なんて想像をしながら、ホテルへ向かいました。
チェックインのときでした。
初めて泊まるホテルだったので、住所とか書かないとだめだよな、と思っていたのですが、なんと電子パネルに、僕の住所が表示されていました。
最初は、そういえば予約サイトで登録してあるからかと思ったのですが、登録した覚えのない会社名まで入っていたので、あれ、おかしいなと思いました。
フロントの人に、
「僕、ここに泊まったことありましたっけ?」
と聞くと、思いもよらない答えが返ってきました。
「系列の、新宿にある店舗に泊まっていただいたようですね」
ハッとしました。
ミサキさんと泊まったホテルと同じ系列のホテルだったのです。
そこからは、どうやって部屋に入ったのか、よく覚えていません。
今から別のホテルに変えようかとも思いましたが、うまい言い訳が思いつかず、どうしようと考えているうちに、みんなが手伝ってくれて思ったより早く終わったと、17:00頃にユウカから連絡が入りました。
ユウカの会社から、このホテルまでは5分もかかりません。
食材や飲み物も全部僕が買ってきていたので、すぐにユウカが部屋にやってきました。
過ちの告白
「台風の日にホテルに泊まるのって、なんだかワクワクするね」
楽しそうにしているユウカを見ていたら、急に罪悪感が押し寄せてきて、気づいたら、「ごめん」と呟いていました。
「ミサキさんと、浮気した…」
「本当にごめん、一回だけど、許してほしいとは言わない、慰謝料はほしい分だけ払う」
息継ぎもせずに言うと、ユウカは、僕の予想していたどんな表情もしていませんでした。
泣くことも、怒ることもなく、両手を握りしめて、目線をさまよわせていました。
「ごめんなさい」
僕は、子どもの話や犬の話のことを言っているんだと思いました。
「ユウカが謝ることはない、ユウカの話をちゃんと聞いてあげあられなくてごめん」
そう言うと、ユウカが小さな声で、「違うの」と言いました。
「私も、同級生と……」
最後まで言いませんでしたが、すぐに気づきました。
同窓会のあとから、子どものことを言わなくなったのは、自分も、同級生と関係を持ったからだったのです。
とてもホテルに泊まっていられるような雰囲気ではなくなり、荷物をまとめて、すぐにチェックアウトしました。
雨も風もだいぶ強くなっており、フロントの人にも、迎えに来てもらったタクシーの運転手にも怪訝そうな顔をされましたが、嵐の中、帰宅したのでした。
その後
あれから6年が経ちました。
不倫騒動のときのユウカの年齢になり、同級生たちも子どもがいる夫婦が多くなり、子どもがほしいと毎日のように言っていたユウカの気持ちが、少しだけわかるようになりました。
結局あれから僕たちは話し合いを重ね、お互いに一晩だけの関係だったことや、元々交際期間が短かったこともあり、いったん別居して、様子を見ることにしました。
別居と言っても、恋人のような関係になろうということで言い出したものでした。
別居なので、お互いが不倫していない保証はありませんでしたが、
お互いの家を行き来したり、デートを重ね、一年程経ったところで、再度話し合いの場を持ちました。
最終的にはお互いに結婚生活を続けたいという話になり、離婚はしないことになりました。
以前、二人で住んでいた部屋は賃貸で、別居したときに引き払っていたので、同居に伴い家を購入しました。
もう不倫はしないという誓いではないですが、夫婦共同で住宅ローンを組んだ、戸建ての家です。
今はそこで、新しい家族と暮らしています。
それが柴犬のむぎです。
子どもはまだいません。
ユウカは不妊治療はしたくないと言うものの、寂しそうにしていたので、ユウカの誕生日にむぎを家族に迎えました。
今はむぎのおかげもあり、家族3人仲良くやっています。
台風がくるたび胸がざわざわするするのは、今後も治ることがないと思います。